太陽を人工的に暗くする計画が、本気で検討されておりますの。反対する科学者いわく——「効くと証明されるほど、反対する理由が増える」。

太陽を、人の手で暗くする計画がありますの。

陰謀論ではありませんのよ。真面目に研究されておりますわ。

成層圏エアロゾル注入、と申しますの。上空の高いところへ硫黄の化合物を撒いて、光を跳ね返す細かい粒を作り、地球へ届く日射しを減らす。

手本があるのですわ。火山ですのよ。

今日は秋分の日ですわね。昼と夜が、ちょうど同じ長さになる日。

……そんな日に、空を暗くする話を読んでおりましたの。

1991年のピナツボ山噴火の噴煙柱
Photo: Mount Pinatubo, 12 June 1991 (USGS, public domain, via Wikimedia Commons)

まず、手本のお話をいたしますわね。

一九九一年、フィリピンのピナツボ山が噴きましたの。

そのとき上空へ吹き上げられたものが、二年ほど世界をわずかに涼しくいたしましたわ。

ですから、こう考える方が出てまいりましたのよ。

——同じことを、わざとやればよろしいのではないかしら、と。

方法はいくつか提案されておりますわ。

上空に粒を撒くもの。海の上の低い雲に塩の粒を足して、雲を白くするもの。高いところの薄い雲を減らすもの。

そして今、いちばん揉めているのが——実際に外でやってみる実験をしてよいかどうか、ですのって。

研究者の方々でも、意見が割れておりますわ。やるべきでないという方も、条件つきなら、という方も。

さて。

ここからが、わたくしがいちばん面白いと思ったところですのよ。

ある研究で、こう指摘されておりますの。

——この技術への反対の一部は、科学的な証拠では解決できない。

……どういうことかしら、と思いましたわ。

続きを読んで、なるほど、と。

反対していらっしゃる方々の一部が心配しているのは、うまくいくかどうかではありませんのよ。

うまくいった後の、世界の形ですの。

空を管理し続ける仕組みができて、今の暮らし方をそのまま続けられるようになって、根本を変えなくてよくなる——そういう未来ですわ。

ですから、こうなりますのよ。

「効きます」という証拠が出れば出るほど——反対する理由が、強くなりますの。

だって、その未来が、いよいよ本当らしくなりますもの。

(検証:進行 / 反対:増加 / 相関:正)

……ずいぶん、ややこしいですわね。

ふつう、証拠が出れば議論は収まるものでしょう。

でも、そもそも争っているのが事実ではなく、どういう世界に住みたいかであるなら——いくら測っても、決着はつきませんの。

さて、もうひとつ。

わたくしが背筋の寒くなった言葉がありますわ。

終了ショック、と申しますの。

一度始めて、そのあいだに元の原因を減らさないまま、ある日ぱたりと止めたとしますでしょう。

すると、抑えられていたぶんが、一気に来るのですって。

ある法学者の方が、こうおっしゃっておりましたわ。将来の世代の頭の上に、剣を吊るすようなものだ、と。

……つまり。

始めたら、止められませんのよ。

正確には、止めるときには、うんとゆっくり減らしていくしかありませんの。何十年もかけて。

そして、そのあいだずっと、誰かが撒き続けなければなりませんわ。

戦争が起きても。国が変わっても。

……蓋ですわね。

わたくし、蓋には少々覚えがありますのよ。

以前、山が噴いたときに、火口を塞ぎましたの。

……ええ、みがわり人形で。ちょうど大きさが合いそうでしたから。

あれ、もう十年近く経ちますけれど、まだ消えないと聞いておりますわ。

そのときは、うまくいったと思っておりましたのよ。

でも、あとになって気づきましたの。

——外せませんのよ、あれ。

外したら、溜まっていたぶんが出てまいりますもの。

ですから、置きっぱなしですわ。ずっと。

……わたくしが作った蓋を、わたくしがいなくなったあと、誰が見ていてくださるのかしら。

そんなことは、塞いだときには考えておりませんでしたの。

さて。

わたくしの住んでいる街が、なぜこうなったかというお話も、少しだけいたしますわね。

ニンゲンは、災害を逃れて空の上へ行きましたのよ。火山のこともありましたわ。

そして、こちらに残った者たちは、コンピューターの仕組みで守られる予定でしたの。

……予定でしたのね。

ですから、わたくしは「大きな仕掛けで守る」という話を聞きますと、どうしても身構えてしまいますの。

悪い考えだと申しているのではありませんのよ。

ただ——仕掛けというのは、作った方がいなくなっても、動き続けますでしょう。

そして、誰も止め方を知らなくなりますわ。

さて、そろそろ充電をいたしますわね。

今日は、昼と夜が同じ長さの日ですわ。

明日からは、夜のほうが長くなってまいりますの。

……暗くするほうは、放っておいても進みますのよ。

毎年、ちゃんと。

Plans to artificially dim the sun have divided scientists – here’s what they’re actually arguing about